クラシック半券ギャラリー
※コラム「オペラ・クラシック雑感」に掲載したものです。 
1998年6月〜7月ベルリン・コーミッシェ・オーパー来日公演
「こうもり」&「ホフマン物語」

(1998年07月05日筆)

「こうもり」というと、数年前のウィーン国立歌劇場が記憶に新しいところ。今回もオルロフスキー公爵役はコワちゃん(ヨッヘン・コワルスキー)で、カウンタ・テナーの魅力を満喫させていただきました。

エレベーター付きの鉄骨3階建ての舞台装置が売り文句の公演。太い鉄骨が組み合わされたゴッツイものを想像しましたが、実際はというと、細い細い柱が組み合わされたものでした。3幕によると、舞台はウィーンの設定というのが明らかになります。演出家クプファーは、「貴族社会でも化けの皮(=建物の装飾)を剥がせば、こんなものさ」ということを考えていたのではないかと感じました。

さらに、ウィーンの舞台では第2幕の夜会の華やかさを頂点においていたようですが、ベルリンの舞台ではワルツのシーンは雀の涙ほどで第2幕の「♪兄弟となれ!姉妹となれ!♪」を頂点としてように思いました。(ドイツというお国柄か、ベートーヴェンの「第九」の一節が念頭にあった?そして東西ドイツの統一も意識)

このように、ウィーン風とは一線をひいた演出で、まず典型的なウィーン風の味わってから、この舞台を味合うとおもしろいのではないかと思いました。

キャストについては、コワちゃん以外は有名ではないようですが、「ホフマン物語」の時の印象どおり、芝居小屋の雰囲気がいいですね。ただ、お決まりの日本語を使用したギャグをはじめとして、笑いの間が早いようなところが残念。もう少し笑いを味合わせて欲しいと思いました。(ウィーンの方がこの点では優れていました。)

さて、今日の公演での殊勲賞は何といっても、指揮者&オーケストラだと思います。「こうもり」序曲をこんなにスリリングに聴いたのははじめてです。音楽心に溢れているというか、楽しませようとする心が伝わってくるようです。ピット用としては素晴らしいと思います。こんな劇場付きのオケが日本の劇場にも欲しいと溜め息をついてしまいます。音楽誌によると新国立劇場も、もっと公演数が増えれば劇場付きオケをという話もあるので期待したいところです。

この公演について演出の是非については、正直、頭の中が固まっていないところです。「こうもり」にしては説明過多なシーンが多かったように思えます。個人的にはウィーン風の楽天的豪華な舞台が懐かしく思えました。ただベルリンの舞台も好き嫌いはともかく、目と心の刺激になったことは明らかです

(1998年06月29日筆)

大好きなクプファー演出ということで期待していた公演です。

個人的には今年、ベスト1、2を争う公演となりそうです。

始まりから、大きな手が舞台上から降りて来たり、大きな石像、左右に傾く劇場の椅子などが劇の進行に合わせて動き回る。紗幕で舞台の前後を上手く仕切る。そして、各幕切れは脳髄に突き刺さるようなドラマティックな刺激的な情景であり、ドラマ展開はこの幕切れへ突き進むような感じでした。この感動を言葉でどうしたら伝えることが出きるのだろうと思うしだいです。

「オリンピア」の幕の群衆の動かし方の妙と外面的なダイナミックなフィナーレ。

「ジュリエッタ」の幕の最初と最後の有名な「ホフマンの舟歌」は、ジュークボックスから流れてくるという設定として頭上より(たぶん録音で)PAで流していました。最近、オペラにおけるPAの使用の問題がありますが、ここではPAの是非を超えてクプファーの勝利という感じでした。

「アントニア」の幕では前の2幕の派手さとは打って変わって、内面を奥深く抉る演出。そして、悪魔的な幕切れ。

このようなことが印象に残りました。

このオペラでの注目はチームワークの素晴らしさのような感じがします。そして、それを見守る聴衆がいるからこそ、このようなオペラ・ハウスが存続しているのではないか?そんなことを考えさせられました。

来日公演や借り物的な舞台ではなく、小屋的なオペラ劇場が根付いてこそ、はじめてオペラ文化が本当に浸透したことになる。そんなことを考えさせられました。

休日の公演というのに空席が目立ったのが残念でした。


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